深い陥穽に墜ちたとは/積 緋露雪00
 
をしなければ、
俺は俺の存在に対する猜疑を振り払ふ事など不可能。

黒子に吸ひ寄せられてしまった俺は
最早その磁場から逃れる力はなく、
陥るのみなのだ。

しかし、それが果たして堕ちてゐるのか、
天昇してゐるのか最早判定不可能なのも正直なところ。

果たせる哉、
俺の事を客観視出来る俺、
つまり、対自、更に言へば脱自の俺の有り様なんぞ
終ぞ解りはしないのだ。

「実存は本質に先立つ」と言った先人がゐたが、
そもそも俺の本質とは何なのか。
俺の本質とは此の底知れぬ黒子の穴ではないのか。
それとも、かうしてじたばたしてゐるだけの優柔不断な俺ではないのか。

さあ、嵐よ来い。
さうして黒子の穴に堕ちた馬鹿な俺を吹き飛ばしてくれないか。
さもなければ救はれる俺を誰が想像出来るのか。


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