百億の目の数だけ目の位置があり/狸亭
 
満員電車の中で見たくもない他人の顔を間近かに見たり
疲れ果てて 一杯の盃に満たされた酒を見る目
戦禍の果ての廃墟や砂漠の国の文明の址を見る目
豪華なシャンデリヤの下に集う紳士淑女の目
世紀末の時空をさまよい目はその位置を変えていくのだが
百億の目の数を追いかけているつもりが
ぼくの目はやっぱり二つしかなく
たった二つの目は二つ並んで顔についていて
自分の体躯と一緒に移動している。

* この詩を書いてからはや十年を過ぎ世紀をも越えてしまったが当時感じていたことは今も変らない。時事的な行を現在の状況に読みかえてもらえれば、未だ賞味期限は続いているように思う。



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