ひと夏の甲子園/花野誉
 

運転中 

不意に現れ 目の端で捉える

蔦の絡まる建物

 もう、その時期か

あの夏から

幾度 高校野球が開催されたか

懲りずに毎年 

十七歳の夏に引き戻される

高校の勉強合宿

エレベーター内で出逢った人は

他県の高校球児

あの夏 

甲子園はどれだけ暑かったかなんて

必死で恋していたから覚えていない

テニスの試合は全部放棄

ラケットを抱え 初めての甲子園

あまりの大きさに驚いた瞬間

彼がホームランを打った

まるでドラマか映画のよう

初めての高校野球観戦

初めてのカチワリ

初めて聞く方言

口吻に第二段階があることを知った、

真昼の鳴尾浜

三回戦敗退後

関門海峡を越えて

帰っていったその人は

それっきり

まさに

ひと夏の恋

オマケは夏休み明け

テニス顧問からの強烈な叱責と罰

忘れようにも忘れられない夏











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