In the shade/リリー
 
 駅から出るとバスターミナルを
 陽が独占する
 発車して行くバスの後ろ姿へ
 あつかましく輝きながら

 瞼を伏せて立っているバス停の
 シェルターで、高校生ぐらいだろうか
 少年と少女がベンチに座っていた
 夏の熱気で身を捩る通路を
 只 黙って見つめていた

 うすもも色の花がしろく光るような
 頬をした少女の手は
 少年の掌のなかにすっぽりと
 包みこまれていた
 その掌だけが、ささやき声で
 話しあっている様だった

 ふたりは恋をし始めたばかりなので
 あんなに慎み深いのか
 陽射しに呑まれる人影の足音は
 クリスタルな息を
 美しい子供たちに吹いてゆく

 そこからは、
 推し量れない白日のむこうを見詰めて
 笑みだけを交わす
 少年と少女が座っていた


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