元気な花/リリー
 
 
 線路沿いの車道を跨ぐ五線譜に
 見つけた一拍の音符が、
 陽射しで霞み
 黒い羽をひろげて飛びたった

 窓越しに流れる炎昼は
 人通りも無く
 『割烹あんど喫茶』の看板を掲げる
 三階建てで白壁の店屋
 格子戸のわきにビビッドオレンジの
 ハイビスカスが豊麗な居姿で
 太陽の化身の様

 このとき、心は一瞬
 ハイビスカスに寄りかかり
 心地よいエナジーの漣が
 すぼんでいた肩を開かせて
 ほんのつかの間
 抱きこんでみる夏の虚像のすがすがしさ

 昏みゆく休日の街
 通り抜けるいつもの公園に
 梅雨の尻尾をちょん切る勢いで
 もう、咲いているキバナコスモス
 
 たどり着く玄関を開ければ
 閉め切ってあった暑気が、かしこまって
 「今、お帰りですか」と
 問いかけてくる
 けだるくって返すことばも無いけれど。
 
 
 
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