口無し/りつ
 
甘い香りが
ゆめの中で薫った

逢瀬は短く激しく
ただ
お互いを貪り
崖の上からダイブするような眩暈に
果てたわたしたちは
自然に微睡んだ

わたしは白い花に囲まれていた
甘い香りは
次第にきつくなり
時が見張る杜から抜け出したくなって
いつまでも纏わりつく香りに
くらりとしゃがむ

あのひと
綺麗な振り袖を着る般若のわたし
濃厚に濃密に
翳るのは
《口無し》という符号の死人
そこに居たのか
探してるんだよ
今も
未来まで

恨んでいるのか
と問えば
朽ちなしの花弁は
ひらりと散った

赦されずとも愛するのだから
祟るならそれも良い

ひとことだけを
携えて
眠りから醒めれば
白い花びらを
耀く情熱のように
美しい貴石のように
手のひらで包んでいた
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