底の記憶/ひだかたけし
 
土佐の海辺の村で
毎日毎夜薄暗い電灯の
野外畳の上にでんと座り
鍋に茹でられた貝という貝
爪楊枝でほじくり出し
それぞれ異なる磯ノ味覚
噛み砕き引き裂き食い喰らい
瞑黙ひたすらに味わい尽くし
荒々しく律動する
天の潮騒の唸りヲ聴く
山葵醤油に涙自然溢れ流れ

水の色の透明となっていきながら

透明己は
海の内臓を
孕み含まれる
宙の香を満喫し
光の波頭の次々と
押し寄せて砕け散る
柔らか純白な宙ノ腹に
溺れ底迄呑まれ呑み返す



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