ひとつの空/服部 剛
 
この世がひとつの鍋ならば
阿呆らしきことのごった煮じゃ

杖を頼りに散歩から帰り
ブラウン管を開けば
空母から戦闘機が
美しい水平線へ消えてゆく

イラク人の出稼ぎ労働者がバスに揺られて
戦場に残した妻子の安否を
涙をためて気にしとる

アメリカ兵の若い妻が深夜の寝室で
戦場で銃を手に走る夫の悪夢を
頭から必死に打ち消しとる

10月31日生まれのわしは
仏壇の足元に置かれた
でかい南瓜(かぼちゃ)の顔をかぶる

くりぬいた瞳の闇を覆う両手の内側で
幾筋もの血糸が眼球を這い伸びる

「 おぎゃあ、おぎゃあ 」

産声が どこかで 小さく 響
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