おまん瞠目(おまんとくれは、その参)/佐々宝砂
 
がぽつりと呟く。
ついで、今度はりんと通る声を張り上げ、

 みな。夕立がくるぞ。帰らう。

帰らう。
呉葉の声がおまんの耳に強く響いた。
瞠目する思ひであつた。
帰らう。さうぢや。
荒倉の山はわしらが宿ぢや。
呉葉が鬼であらうとも。
わしが鬼であらうとも。

女たちは、
鬼であらうとなからうと、
女たちのただひとつの宿りに帰るために、
急ぎ身仕舞をした。
空の片隅に、
むくむくと入道雲が育つてゐた。



初出 詩人ギルド「この指とまれ」2003・8月 全4作予定
その壱「おまん瞑目」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39002
その弐「春紅葉」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39020
その参「おまん瞠目」http://po-m.com/forum/i_doc.php?did=39022

参考文献:鬼無里村史・戸隠伝説他
この連作を書くにあたって「鬼無里村史」の写しを提供して下さった渦巻二三五さんに感謝します。


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