船になる/夏井椋也
 

ときどき船になる

ただ流されるだけの
木の葉ではなくて

川を下る船になる

くぐった橋を数えるだけの
泡ぶくではなくて

時を忘れた船になる

舳先にとまったユリカモメの
水先案内を見過ごして

たかが5,4ノットの
ささやかな波をたてて

誰かを乗せたり
乗せなかったり

岸辺の日常が手を振るのを
船上の非日常が手を振りかえしたり

ときどき船になる

今にも錆びつきそうな
エンジンの鼓動を確かめるために

川を下る船になる

しだいに濃くなる潮の香りの中に
川の終わりを予感するために

まだまだ遠い

はずだ



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