海底/這 いずる
幸せを願えば
不幸に会う
私たちは生きて生まれて死んでいくまでに
何か遺すことへ努力していますが
遺すことは禍根であり
何も遺せないくるしみの私たちが居たこと
藻屑に消える人間だったのは幸いなのではないでしょうか
夜と朝と月と金と日と
頭痛と雨と晴れと
笑った笑った苦しくて微笑んだ
流れていく頭の魚だ
魚群の影が頭上を過ぎ
沈む夕陽が海を煮出し
灯台がちかっと光り消え
海の泡がぷかりと弾ける
幸せになりますように。
不幸せな目に会いませんように。
とても満足できますように
完全の円を描くために、
完全の生活の幸せになれるように、
欲深である限り
私たちは無限の暗闇にいるのです
私たちが祈りを捧げる度に
地獄の深海に墜ちているのです
私たちは知っています
私たちは地獄でもよかった
私たちは地獄を地獄と知り踏み入れ
どうしてもそれが欲しくて
幸せに
生涯唯一と決めた幸せに、なれるよう
海底で息苦しいばかりの身を藻掻いて
海上の光に手を伸ばしては
泡を出す
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