原子論/fujisaki
 
たよね。柔らかな土。くるまれる感触。梢。セミの抜け殻。衝突する僕。

マンションの一階には暗い何かが充満している。太陽の無い昼下がり。夜勤明けの母は寝ている。うす紫の明け方よりもこの時間の部屋は狭い、と思う。買ったばかりの携帯を開いて僕に聞かれるのを父は待っている。真新しいつやつやのボタンに親指が迷う。やがて父は自ら言い出してしまう。背中にはりついたポロシャツが少し丸まる。コップの水が部屋の暗さに溶け出ているようで、いま、部屋の外でも何も揺れていないだろうと思う。分子も原子も同じところにあるだろうと思う。僕は父の丸まる背中をどうしたらいいのかわからない。どうしたいのかわからない。うつむく背中の
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