新しい靴を買いに/凍湖
 
思い出せないくらい長いあいだ履いていた靴の
ソールがなめらかになり
雨の日にツルツルすべって
ひとりだけ氷の上を歩いているようで
それも悪くはなかったが
いつかは転んで頭を打ちそうと思い
頭が割れたら事件なので
靴屋に行った

店頭に行儀よく並び、どれもそれぞれに魅力的な靴が
ぴかぴか光り
新品の光を浴びながら
相棒になれそうな顔を探す

仕事に遅れないようせかせかと歩く日も
友と会ううれしさに跳ねるように歩く日も
全身の重さに這うように歩く日も
ちゃんと支えて目的地に連れて行ってくれるような
そういう面構えをしているやつはいないか

死ぬまで生きるのってとっても疲れるから靴くらいはぜんぶを支えてほしい

もう少し言うと
ときに思いもよらないような寄り道をして
アスファルトの割れ目にそっと咲く菫のような
わくわくするはずれて素敵な場所に
つきあってくれるような
そういうやつでいてほしい

新しい靴はそうでなくちゃね

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