再現/リつ
 


実際、視覚は
それほど大したことじゃないんだ。
現実に見えていることが、
必ずしも真実ではないように。

思い出す。
忠実に。

キミの肌触りは
柔らかく滑って肉厚の花弁、
(ああ、一本三百円の薔薇だ。)
月並みで陳腐な深紅のバラ。
それでも極上の。

キミの匂いは甘く
不自然な
二百円のヴァニラアイスクリーム。
化学薬品で合成した方が、
強く香るんだ。

舐めれば腋下は苦く、
石鹸を齧った後味の悪さを
汗ばんだ口溶けで
消してゆく。
上気した肌から
ヴァニラと
深い杜の
湿った苔の匂いが
混じる。

溢れてる。

濡れた生臭
[次のページ]
戻る   Point(1)