エコー/栗栖真理亜
遠くの方から「声」が聞こえる
私を呼ぶ声が
甘く懐かしい声
低く、緩やかに私の胸に響いていた声
ああ、しかし今はその声はキリのように消えて失くなってしまいそう
声は蜃気楼のように近づこうとすればするほど遠ざかってしまう
耳をすまして声を探ろうとするけれど声は意地悪く無口になる
なぜこのようなことになってしまったのだろう
自分の肌が冷たく感じられる
暖かな寝床も与えられずに私は迷い続ける
零れ落ちる涙は露となって地面を濡らす
心は死んだ魚のように灰色の海の上に浮かんでいる
脳裏に誰かの顔がぼんやり浮かんだ
それは愛しい者の顔
やがてにじんで消えてしまった
あれは幻だったのか?
私は強く頭を横に振った
想いを打ち消す為に
空は私の気持ちを裏切るかのように
青く澄み渡る空と
暖かな日の光で
天と地上とを祝福していた
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