ナニモノ/栗栖真理亜
どろりと鉛のような黒
固体が液体に変わる前のあの嫌らしい柔らかさ
便器の裏に知らぬ間にべったり張り付いた排泄物みたいに
鼻をつくような匂いを漂わせながら口の端を歪ませる
「ここはどこだ」
どこまでも続く灰色の壁に手を這わせ
恐る恐る土煙の立つ地面を伝う
誰もいない
いるのは人の形をした影
ふわふわと実体のない体を漂わせ
ときおり地面に降りてきてはまた浮き上がる
しばらく眺めていたが声をかけるにもなんだか躊躇いを感じるほど
「お前は誰だ」
勇気を振り絞って問いかけてみる
【ケタケタケタケタ】
頭いっぱいに甲高く鳴り響いたかと思うと
いつのまにか眼前に影が現れた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)