羊雲を仰いで/服部 剛
自らの愚かな手で
目の前をさえぎる沼を
つくり出してしまった時は
でくのぼうとなって立ち止まり
かけがえなき友の背後から吹き抜ける
風の言葉に耳を澄まそう
私は木になりたかった
幾人かの疲れた人々が
幹を背もたれに座り
夏の暑さを逃れて木陰に涼むような
私は羊飼いになりたかった
牧場の丘の上に沈む
暖かい夕陽を背に
迷える羊等と共に
やがて夜空に瞬くひとつの星をたよりに
黙して群れ歩むような
私は今
自らの胸に宿る世のしがらみや
濁った瞳を眩(くら)ませる欲望の熱から逃れ
旅先の丘の上で
五月の風にきらめき唄う木ノ葉の下
ゆっくりと腰を下ろし
只(ただ) 憩(いこ)いたい
傍らにはひとりの友がいて
今まで織り成されてきた互いの物語を
心おきなく陽(ひ)が暮れるまで語らいたい
木陰から仰ぐ青空に
羊雲が泳ぐのを眺めながら
戻る 編 削 Point(14)