ひそやかに/竹節一二三
ゆびさきを闇にひたして
子宮の中に帰ろうとこころみる
背の高いくすのきがわらい
絡まる根でわたしをとらえた
蝉のねごとが聞こえる
綿毛のくしゃみが聞こえる
トマトの放出する酸素が見える
切り株はなみだをながし
茅をひけば血が流れる
胎のなかはひどくあたたかく
赤い闇がわたしをみだす
ひそやかに ひそやかに
足をのばせばへそにぶつかる
とくとくと何かが響き
目裏には赤がはじける
羊水にひたれば
なにもかもが
ひそやかに
なる
おやすみなさい
くすのきの闇にひたり
わたしはまるまり目を閉じた
絡みつく根が
繭のように
ひそやかに
戻る 編 削 Point(3)