去るものは追わぬ、イタリア人のスケッチ/鏡文志
 
偉そうに感じてしまう」
それを受けて私は、今度はトマトソースのかかったキャベツをフォークで刺して口に入れ、頬張るとナポリタンのアンポンタンに、こう言ってやった。
「偉そうなことと、尊いことは違う。優しそうな人と、優しい人も違う。詩が全てを語ると言ったが、詩は全ての部分的現実を必要とする。在るもの=つまり現実から目を逸らさず包括し続ける許容性と寛容性を持っているのが詩なんだ。つまり知恵や言霊と言うのは、最も気高く最も優しく、認識世界と言うものを押し広げながら、部分を通して全体の本質を語るんだ」
ナポリタンのアンポンタンは、パルメザンチーズを振り振り陽気に振る舞うと
「言葉は空気に消えると、しばらく人々の脳裏に刻みつけられる。美味しいものや、イタリアの陽気。そういった、その日のうちに消えてなにも残らないものがオイラは好きでね」
消えていくものを、いつまでも追いかけるのは女だ。俺は女々しい男は好かんと、ナポリタンのアンポンタンはランチを食い終わった後会計を済まし、文学素人肌の自称詩人である私をからかうように店を出て行った。
戻る   Point(2)