秋あざみ/リリー
 
 急な傾斜の小径をのぼり切れば
 大きな旧居の横手に広がる
 段々畑が見えてくる

 金網のフェンス越し、
 至近距離で咲いているアザミへ
 iPadのカメラを向けてみる
 うつし世の碧落に
 儚くそこに在るべくして花をつけている
 誰も摘むものはいないだろう

 通りすがりに見つけた
 むらさきに、揺さぶられる想いで
 きのうの詰まらぬくりごとも
 昼なかの雲のゆききの様にあてなく流れて

 佇むわたしに素知らぬ顔して
 カメラへおさまる一輪は
 人なく 愛なく
 我なく黙し
 わずかにこちらをうかがいみる様でもある

 粗い草かげに日が傾けば
 早くに暮れる一時を、すがすがしく
 貴女は小さくなって闇にひたるのだろう
 

 
 
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