カルテと文鳥/そらの珊瑚
そして医者がわたしのカルテに新しい病状について書き込んでいる
その手元を盗み見るがあまりの悪筆でまったく読めない
日本語ではないのかもしれない
秋が失われて久しいのだけど
秋のことは覚えていて
唐突に始まった冬には決まって体調をくずしてしまう
医者は「そういう生き物は案外多いですよ」 という
わたしがいつかおばあちゃんになって
孫がいたら
秋のことを話してきかせよう
見上げれば空いっぱいに広がる鰯雲や
秋薔薇の香り
銀色のススキノ原のさざなみ
絶滅前のコオロギの鈴の音
暑さと寒さの間の優しい季節のおとぎばなしを
お薬を出しておきましょう
そして文鳥がカルテのページを赤いくちばしでめくりました
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