弁償?/森 真察人
 
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僕は確かに、あなたを愛しています。
──あなたはそのような歩行を、発言を、落涙(らくるい)をしない筈(はず)です。
僕は、一体、あなたの何を愛しているのでしょうか。

やわらかな抱擁(ほうよう)の不在が香ります、空(うつ)ろな瞳孔や足音から。
正しい論理の消失が見えます、大きなひらがなや駄駄から。
口笛の無音が聞(きこ)えます、痺れた笑顔や退屈から。
それらの中に間違いなく、僕の愛が沁み透っていた筈なのです。もろとも消えてしまったのでしょうか。

僕の愛するあなたが消えてしまったのなら、僕の愛しているあなたは、何なのでしょうか──。

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