『世界樹の断面』以後/中田満帆
で以て
答えとは赫い薬品 水ぎわの男たちすらきょうは悲しい
『病める子』の画布に重なる娘をりわれは見つむるわずかな季節
文鳥鳴きしきる隣人の室の外壁工事が終わる
光りのように輝く忍耐ありしもやがて砕けて阿部薫の肖像があり
フィードバック・ノイズあふる哀悼示せし大友良英の顔昏きかな
まだなのか恢復待ちぬ片足の跛ひきずるおれの靭帯
痛みはいつも新鮮だ 歩くおれさえ追い抜いてゆく
水燃ゆる音楽もあり 繋船の朝を慰む時の曳航
立ち狂う男や女子供らの声聞ゆかな陸橋のひと
夜泣きする射鹿のように深々と水をかぶれり永遠の夢
ディダバディと呪文を唱う風景を擬人化せし真午の月よ
かたっぽうだけ鳴ってゐるヘッドフォンの断線に晩年をば識る
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