慈雨/そらの珊瑚
 
お寺の境内の一角、緑の葉が繁り、そのところどころで小さな可憐な花が咲いている。
その紫色を見ているとなぜか懐かしさでこころのうちがあたたかくなる。
「萩の花だわ」
すれ違っていく観光客の会話でその花の名を知った。
ここを訪れている多くの人は海外からの人らしく、日本人は少数派のようだった。
スマートフォンで写真を撮る。
いつまでも色褪せない花の色。
この地で命をつないでいる花の色。
いつか記憶の中で取り出してみるこの紫は色褪せているだろうか。
池のみなもにぽつりぽつり雨が波紋を描いては消えていく。

雨はすぐに強くなり、タクシーを拾う。
「ずっとお天気でしたんで、こんなに降る
[次のページ]
戻る   Point(15)