犬の影/まーつん
 
思い出は寄り添う
犬のように

抱きしめ、
愛おしむことができる
そんな記憶だけを
私は飼っていたかった

だが因果なもので、心の眼というのは
暗く忌まわしい思い出の方に
向いてしまいがちだ

嫌な記憶で出来た思い出になど
居座ってほしくない

だから、それを捨てようとした

でも、それは何度でも戻ってくる
檻に閉じ込めても、焼却炉に投げ入れても
玄関から放り出しても、山奥に置き去りにしても

家路を辿る犬のように
思い出は戻ってきた

私がキッチンの床に座り込み
流しの下に寄りかかっていると
扉を引っかく音がした
私は立ち上がって、玄関に行っ
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