唯一さわれる星から/九十九空間
この夏、母の実家で
小学生の従弟に付き合い
泥団子を作った
生々しい泥の感触に
多少
面食らってしまい
思えば、子どものとき
泥をさわるくらい
ただの日常だったのに
今はもう
ノートとシャーペン
キーボードやスマホばかり
さわって生きている
その日の夜、
星を見に行った
従弟は星座早見表を携え
僕はそれが
やたら懐かしかった
星座早見表は
母が子どものころから
あるものらしい
祖母が子どものころにも
あったかもしれない
あれが夏の大三角
あの白っぽいのが天の川
惑星の位置は
星座早見表に載ってないけど
今日はあっちに
土星が見える
黙って土星を探していると
双眼鏡を握る手のひらに
泥の感触が残っている気がして
ああこれは
地球のてざわりなんだ
と、思った
そして
生まれてから死ぬまで
この無数の星たちの
どれひとつさわれないことが
とても悲しくなってしまった
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