咲花とかえで/日雇いくん◆hiyatQ6h0c
れるべく咲花に声をかけると、早歩きで家路に向かった。
そして、家に着いた。
「ただいまー」
戸を開けると、玄関の式台に。見慣れない、けれどもかえでにはなつかしい、かつてファンであったある選手のグッズがぽつんと置かれていた。
「おかえりー」
郁子が姿を現した。
「お母さん……ごめん、ごめんなさい……」
母の顔を見ると、グラウンドに現れた母の懸命な姿が重なり、言ったあと涙があふれるのをこらえるのが出来なかった。
「あら、勝ったんでしょ? 今日はめでたい日だわあお祝いよー。なんで泣いたりするの?」
「だって……だって、お母さんがそんなに苦労してた、なんて……」
「ああ、試合後のこと? 母さんも最近運動不足だから、それも兼ねてちょっとね。1時間で数件回るだけだから、そんなでもないのよー」
言うと、郁子はかえでを抱き寄せ、耳元でやさしく言った。
「かえでは、何にも心配しないでいいのよ、母さん、好きでやってるだけなんだから……」
「お母さん……」
言いながら二人は、しばしその場に佇んだ。
玄関ドアの横にある自転車は、少しだけ泥がついていた。
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