それさへあれば/積 緋露雪00
最早水底にゆっくりと落ち行くやうに
断念をのみ後生大事に抱いて
おれは何もかも棄てちまったのか。
水底で死を待つのみのおれか。
それでも足掻いて水面に顔を出し息継ぎをする理由が解らぬ。
何の事はない、おれは単に迷子になっちまっただけなのかもしれぬ。
生くるに意味などないことは疾うに知ってはゐるが、
何かは名指せぬがそれさへあれば、
おれは生きて行けるに違ひない。
ところが、それが何なのか一向に解らぬのだ。
最早瘋癲の姿をしてそれを探すのだが、
それは「えへへっ」と嗤って
おれの元からは逃げ水の如く逃げ失せる。
おれは未来永劫手にできぬものを求めてゐるのか。
否、さうでは
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