母のよこぐるま/そらの珊瑚
父が亡くなったと知らせをもらって
実家に帰ると
和室に父は寝かされていた
三年ほど入院していた病院は
実家の斜め裏にあり
歩いて約三分の近さだったけれど
父は生きて一度も家に帰ることはなかった
家に帰りたいとも言わず
機嫌の良い時はハロー
都合の悪い時はアイ・ドントノーとか言って
看護師さんを笑わせて
病室にテレビはあったが見ることもなく
窓の外に
ときおり鳥が飛んでいくのを見ることを
楽しみにしていたらしい
「大変だったんだよ、亡くなったお父さん、ストレッチャーに乗せて、病院から家までみんなで運んだんだから」
と親戚の人がいう
遺体をそんなふうに運ぶこと
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