暗号/パンジーの切先(ハツ)
こうえんの隅に描かれていた、てんしの横顔を見て、
「祈りという文字は、ずきずきするから、いのり、へとひらかれていく、」
と、書きつけたくて、あたしがノートをひらくとき、
回転扉のむこうでは、こいびとが、あたしのいのりは届かなかった、というジェスチャーをなん度も繰り返している、
(※両手のゆびさきだけを合わせて、とても速く動かしてから、そのあいだに膜を作ることは、いのりが宛先不明であったことを示す)
白詰草とクローバーのかんけいとおなじように、あたしたちも、もつれあって泳ぐ脊椎動物どうしだったのに、どうして回転扉の向こうなんかにいるのか、腹が立って、うんと、とがらせた爪先で、地面に、いくじなし、と大きく書いてみる、
それから、すっかりくたびれた脚を引き摺って、ベンチに座ると、「てんしには眉毛がないようだ、」と、ノートに付け加えてから、あたしは、あたしに書かれることによって、よごれていくぽえむのことを迎えにいく。
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