スイマーズ/そらの珊瑚
小学生のころ、夏休みになると海へよく行った
高学年になると波に挑む遊びをよくしたものだった
大きな波がきたとき、そびえ立つようなその壁のふところに飛び込んで
波を潜り抜けるという単純な遊び
ときおりヘマをして
砕けた波の中でぐるんぐるんと回りもみくちゃにされた
死ぬかもしれない、などと思いながら
鼻から入った塩水は痛くて
すっかり意気消沈し
手でとんとんと耳に入った水を抜きながら
砂浜の大きなパラソルの下で座ってる母のもとに帰ると
また唇が紫になってる! もっと早く帰ってきてよ
と怒られた
海のないところで育った母はたぶん泳げないのだろう
その証拠にいつも水着を着ていなかった
今、ちょっと死にそうになったなんて言えない
命をかけて波に挑むゲームは母には永遠にわからない
パラソルの下で海を眺める
そこかしこで波にもまれては敗北するこどもたち
勝ち続ける波のうねりは絶えることなく
あの夏わたしは何回か死んでそのたび複製しながら
のんきな母とスイカを食べた
群青の海
わきたつ入道雲
空をおよぐ鳥たち
水平線に浮かぶ小さな遠い島
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