ドロボウ/由木名緒美
 
大切な友人と久しぶりにランチを食べた。
彼女が自殺未遂をして床で昏睡していたら、
「そんなことだろうと思った、邪魔だ。どけ」
と旦那さんに言われてから、ろくに食べていなかった、と、ころころと笑った。
「どこかにバスに乗って行っちゃいたい。消えたいなあ」
と彼女はサンドイッチをかじった。

両親から虐待され、兄弟からは罵られ、従兄弟からはレイプされ、手首を切ってICUに入り、写真の個展や執筆も、彼女の夢からこぼれ落ちてグラスの縁を濡らしている。

お互いに服薬しているのでお冷を何度もおかわりする。「何がご注文はありませんか?」
店員さんから声を掛けられたけれど話に夢中だったので、
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