遠足/ヒロセマコト
気温は三十度を越えた午前九時
父は誰にも告げず、徒歩で家を出た
まっすぐな国道を四キロも歩いた末
暑さのせいか、何かに躓いたのか、転倒した
通りがかった人や周辺の住民が介抱してくれ、
一一九に電話し、救急搬送された
頬と膝の骨折
顔面や肘の擦過傷
検査の結果、脳に損傷はなかったものの
ショックを受けているのは明らかで
炎天下を三時間も歩き回った末に倒れたことも
夜にはもうすっかり忘れている
父が徒歩でどこに行こうとしていたのか
聞いても、本人が一連の事件を
もう覚えていないので
わからないままだ
きっと本人は
ちょっとした遠足のつもりだったのかもしれない
路上に倒れた父の手には
お弁当代わりだろうか
朝食の残りの菓子パンの袋があった
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