タイトルを持たない、/パンジーの切先(ハツ)
 
けている。「もう帰るよ、お母さんも身体に気をつけて。じゃあ」。私は席を立って、店内を横切り、レジにいた店員の女性に、連れがまだ中にいる旨を伝えて店を出た。カンカンと小さな階段を降りている間にも、ひんやり冷たかった身体が、すぐに夏の熱気に包まれてぬるくなる。庭に目を遣れば、薄い紫色の蔦性の花が地面を這って、敷地から溢れ出しそうな姿で咲いている。それはクレマチスと言うのよ。いつか祖母がそんな風に言っていた気がする。そういう記憶ばかりが、ある。
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