白水/田井英祐
 
い。金持ちの年寄り達が紙幣の匂いを嗅ぎ過ぎて、匂いを感じなくなるように、私も己が燃やした紙幣の匂いと、紙幣が燃えて出る煙に燻され続けた蛾の体の匂いを嗅ぎ続けたために、己の匂いを無臭と感じてしまう。私からは臭い匂いがしなくなった。それは自分の自尊心や利己心や情欲などを金で解決したために、人間において一番臭い匂いのする、心情という物を無臭にしてしまったからだった。
 私の生活は金を借りる前から蛾達によって滅茶苦茶になっていた。もうまともな生活には戻れなくなっていた。しかし、己の匂いを取り戻したいと思っていた。臭ければ臭いほど良いのだった。だから、私は人間において一番匂いを発する愛の臭さを求めた。

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