幸福論/田井英祐
て食堂に戻ってくるとマチコが口の前で片手をひろげ「きゃっ」と叫ぶ。ユウも大粒の瞳をめいっぱい開く。
「わーお」
「お姉ちゃん、お刺身のこと忘れてました。ユウ君ごめんね」
ユウは椅子からとび下り猛スピードでこちらに駆けてくる。そのままわたしの腿にぶつかり顔を埋めてこすりつける。ユウの涙にぬれた睫毛が素足の腿にふれてこそばゆい。わたしがゆっくり膝を曲げてしゃがみ、ユウの頭の上にお刺身の大皿をそっとのせる。
「んーん」
とユウが嫌がるので大皿をユウの頭の上から持ち上げてしまう。
「いやなのユウ君」
「いーや」
わたしの胸にユウの頭が体当たり。胸に顔をうずめたユウは私の背中に手を回す
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