キキコ/田井英祐
んやろ。」
僕がそう言うと、キキコは頷いた。僕が手を離すと、キキコの背がストンと縮んだ。さっきよりもなんや偉い小さく見えたから、「偉いチビに見えるわ」と言うと「そうや、偉いチビやもん」と胸を張った。「なんやムカつくけど、まあええ」と言いながら、もう一度自分で前を正し、その間、キキコがどんな顔しとったか知らんけど、絶対見たない。見たら、絶対、もっと腹立つし、恥ずかしい。
居間から八歩で玄関の縁に腰かけて、革靴を上手い事履いて、十歩目には玄関の引き戸に手をかけた。キキコが台所からバタバタ走ってくるから、転ばんか心配でヒヤヒヤしたけど、見たら怒鳴ってしまうと思って、黙ったまま玄関を開いて、軒先に出
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)