キキコ/田井英祐
 
に出た。「あんた、ちょっと」って声かけられて、初めて振り向いたら、なんや爪楊枝に刺して持って来とる。キキコは軒先の電灯に背を向けとるから、キキコの前が影になって、なに持って来とるか全然分らん。夜と軒先の明りが混ざった薄い闇に、ボウッと爪楊枝の白さが浮き出ており、その先に突き刺さった銀杏型の物から、湯気が立ちいい匂いがしている。「ほら」って言うから、ためらいながらも「しゃあないわ」と観念して、前屈みになって口を開ける。キキコはそれでも、精一杯手を伸ばさんと僕の口に届かんかった。なんやその姿を見とったら、もっと恥ずかしいし、もっとムカつくから、ついつい言ってしもうた。
「偉いチビのくせに、うまい煮物
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