水分をかんじない/パンジーの切先(ハツ)
(妻を忘れるため、父は随分前に出かけた、)
水分をかんじなくなったという母は、
乾燥を終えて、洗濯機から飛び出すとうめいな犬たちを、
外へ放ちつづけている、
犬たちは、夜中に作られて、朝になると、扉をバン、バンと開けて飛び出す。
乾燥機付き洗濯機の扉は、何度もいたずらに開閉を続けられて、
高く耳につく音で、その行いに抗議する、
開け閉めを繰り返されて、扉はとても締まりにくい、
それでも、かぞくの服は、母にかかれば乾燥する、
二十年間、朝に望んだ衣類がなかったことはない、
夜を通して、長く長く回る乾燥機を、母はあたたかく見守る、
夜中のトイレ帰りに、脱衣所を覗けば、
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