紅い花/リリー
 
 
 六月の寒い日が
 まやかしの告白の手紙を読んだ様に
 そくそくと背筋に迫る

 化粧水の冷たさが掌に残り
 それすら重い

 黒いオルフェにとりつかれて
 ピーナツをかじりながら
 髪に真珠の飾りのシュシュをつけてみれば
 ふと考えこませてしまう過去にも
 大事なものが残り
 
 そして 黒いオルフェが
 こんなに魅惑する時、
 六月の中に
 悲しい欲望を忘れ咲き乱れている紅い花が
 あかく あかく
 歓びの日と変らぬ その色は
 ほろびてしまったはずの
 細き血管のたぎり

 貴方の知らない微笑みが浮かぶようになった




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