悪魔/リリー
 
 アテネの丘から
 陽の落ちるのを眺めた人
 暖かい心がある
 鋭い頭脳がある
 広い度量がある
 だが そのどれよりも弱々しい男の魂が
 彼自身を求めている時
 かたい指がある
 細い指がある
 黒い指がある
 それらは消えてゆくべきなのだ

 彼は かたい鎖に身を縛られたまま
 やはり漂い始めていた
 
 名残おしい声をかすかにふるわせ夜が明けかけた
 そうだ
 まさに夜が明けて来た

 廃れ果てた庭の片隅に
 花の色は 褪せもせず
 日輪と金の歯車が重なって
 とめどもなくまわりつづけ
 思わず目をつむった彼の胸をギリギリ締めあげる

 男は天から顔を背けたまま
 からからと鳴る白骨となっていた


戻る   Point(7)