たそがれのもり/あらい
 
 乱れ髪の馬車は能楽の形相を時として無言駅へ向かわせる、面は難くガタイの葉擦れた格子の穴、木枠の落ちた断層は容易に伸縮を繰り返すばかり、あがり框で唸り声と猛火を空に映し出した、
一歩。
 このさきに黄昏の森に、
  ――会いたい人がいました 
 草深くべっ甲の櫛に閉じ込めた、この胸にフミ浸ける。衣擦れの緑、暗闇で暴れまわる、胡散臭い葉の上を苦言の色、リズムに沿わせて、5円で買った瑠璃色を口に放り込む。
 ――こうして舌で転がし続けたけれど
  薄荷のようなマーマレードの杜に、わたしたちがいました

 この、わたしとは、知らない男に手解かれたマクラメで、描かれた天壌蛾ども。小汚らしい
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