冷たいブルー/リリー
 
 雨風鳴る夜更けのベランダ
 指先に 手櫛で抜け落ちた髪
 中身のはみ出した ぬいぐるみ
 ウイスキーの空ビン
 時を刻む音が私を苛立たせる

 そんな悲しい日々がなくなって
 代わりに穏やかなメロディーが私を虚しくさせる
 貴方の影だけでは生きていけないと知って
 疲れてしまったから

 朝交わす挨拶にも どこか
 カビ臭さの漂うようで
 つけっぱなしにするキッチンの換気扇
 それも生きて行こうとする術の一つであるのならば、

 路地で仄か色づき始めた紫陽花は
 六月をまとう糸雨に そこだけ蒼白く
 空色鼠を横切る燕よ
 ヒトリ急いで夏へ向かうのか

 いつものバス停で甃に降りそそぐ
 強まる日差しに傘をさし
 今朝は すれ違ったその人の靴音に
 明るいフゼアの香りがしたのです。




    (2024年6月3日 日本WEB詩人会 初出)

戻る   Point(6)