工具セットの思い出/番田 
 
風を感じていると、生きていることも、同時に感じる。しかし今は無風だった。椅子に腰を下ろしても、遠くに海は見えない。車もなく、そこに行く足もなくしていた。金も、底をつきかけている。昔、家賃が払えなくなりそうだった時のことを思い出す。オークションで家計を立てていた時だった。KTCの工具セットを売って、その月はしのいだ。親も金は貸してくれなかった。あのときほど、親を恨んだことはなかった。そして赤い、その工具セットは辞めた会社から自分宛てに売ったものだった。もちろん金は、払っていない。そして利益は無かった商品だった。しかし、アルミ製のボックスだと想像していたのだが、中を開けるとプラスチックだったので、最後
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