工具セットの思い出/番田 
 
最後までやらかしてしまったと反省した。誰も、今となってはそのことは知らないのだが。僕でさえも今は、忘れかけていた。会社を辞めた僕は、その足ですぐに友人とロンドンに旅行に出かけた。夏だった。僕は、ハイドパークのことさえも知らずに、そこを通り過ぎたっけ。アビー・ロード・スタジオも通り過ぎて、テート・モダンギャラリーを遠くの方に見ていた。でも、できたばかりの、モダンな観覧車に乗って、外の景色を見ていると、でも、たぶん、感動したのだと思う。よく覚えてはいないのだが、そこで、機械で自動で撮影された友人との写真を、買って帰った。そして、周りの人が写っていなかったので悪いと思った。知らなかったので、しょうが無いと今は思っている。その夜は、二人でピザをスーパーで買って帰る時に、屋根の上にいた腹をすかせた若者に呼び止められた。僕らは逃げた。しかし、僕の記憶の中にだけある、工具セットはもうここには無いのだけれど、今でも、そばに持っていても良かったと思えるものの一つではあった。

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