モナカの味/番田 
 
海の前に立ち、思うこともなく、時を過ごす。遠くには、夏に来たことがある時に見たモニュメント。後ろにあったちょっとした高さの防波堤に腰を下ろすと、ここに来る時にあった、コンビニの中で手に入れた森永の値上げされたモナカを齧りながら、沖の方で停泊している船を見ていた。「なぜ、日本ではインフレが起こらなかったのだろう」そんなことを考えながら、口の中に、最後の一個を放り込む。海の向こうは、こちらとは別世界で、インフレにあえいでいる国が、いくつもある。僕はビニール袋の中からフライデーを取り出した。どこまでいっても誰もいない景色の中に、誰もが何かを感じる雑誌の写真がある風景というのは、ありふれているようでいて実に好対照ではあった。花火とそれはよく似ている。僕はもう、誰かに会いたいとは思わなかった。アイフォンに入っていた随分前の音楽を鳴らす。当時のことを、その音や声を聴きながら、思い出す事がよくある。あれからあいつはどうなったのだろうだとか。船は、同じ姿勢のまま、沖に停泊していた。鮮魚コーナーに並んだ魚種もいつのまにか様変わりしてしまったものだった。

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