さまよいびと/ヒロセマコト
 


八十年以上のあなたの歴史と
日常の痕跡を
白々とした
埃っぽい自室に散らかしたまま
あなたは今日も食卓で
小さな小さな缶ビールを飲む



<補足>
 この詩は数年前から認知症が進行している父について書いたものです。
 認知症の症状のひとつとして記憶障害がありますが、常に家族の顔や名前を忘れているわけではありません。普通にテレビや天気の話をしていたと思ったら、ふいに「おふくろは今どこにいるんだ?」などと言い出すこともあります。
 しかし今のところ入浴や食事、排泄はすべて自分でこなしており、体が動く限り自分のことは自分でして、父らしく天寿を全うできるといいなと、そんな気持ちで書きました。
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