巻貝のあぶく/由木名緒美
あの子の声が
いかりみたいに心に刺さって
ゆらゆら
くらげみたいに流されて
泣きっ面に満月
私の脚はどこに
輝けたらと星を見上げ
心が波間に冷やされていく
悪く言ってやったわ
あの子のこと
寡黙な巻貝なら誰にも言わない
けれど、そんな私の声が
世界で一番大嫌い
巻貝はあぶくの相槌でひたいを撫で
殻からゆっくり触手を出すと
静かな声で語り掛けた
「愚痴は愚かな痴と書くけれど、
痴れ者になることで救われることもあるんだ
君は傷つけられたと感じ、
傷口から苦汁を分泌させては
傷をより深くえぐり続ける
自分を癒せないのは、君を愛する君自身の愛
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