「  」/夏井椋也
 

ほどよく温んだ風が
みみたぶを掠めたら
あなたの好きな
「は」で始まる季節

生垣の横の
赤い自転車が
見当たらない

2ブロック先の十字路が
ふんわりとしたら
あなたの好きな
「る」で終わる季節

今年もあなたの
束の間の花巡りが
幕を開ける

ペダルを漕ぐあなたの
後ろ姿を想い浮かべながら

わたしの中の血潮も
緩やかに満ちていく



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