鏡像 【改訂】/リリー
 
ジンかけて一気に登り切る赤い4WDのコンパクトカー。
 「ああ、またやっ」
 「停まってるな。誰やろな、今朝は……」
 助手席の私が、老人ホームの正門から見える救急車を指差した。正門を入
 り、その横を過ぎると救急隊員の姿は無かった。駐車場へ車を停める木崎
 さんの曇った表情。二月になってからこの数日、珍しくない朝であった。

  二人が更衣室へ向かうと、事務所前の廊下を三人の救急隊員が担架にガ
 ウン着込んだ入居者の女性を乗せて担当寮母と一緒に館内を出て行った。
  今朝も朝礼に、早朝勤務の職員は参加出来ない状態。旧館一階が、イン
 フルエンザの患者でほぼ全滅だった。市民病院
[次のページ]
戻る   Point(6)